導入にも学問の施設としてのプライド 野外民族博物館 リトルワールドのボランティアガイド制度 (JANJAN記事)

Ainu_puyarA2008-06-21


http://www.news.janjan.jp/area/0806/0806130504/1.php

Esaman2008/06/21
野外民族博物館リトルワールド(犬山市)では、ボランティアガイド制度を導入している。このガイド制度は、来館者に対するサービス向上を図ると同時に、ボランティアガイドには学芸員が研修プログラムを実施し、生涯学習の場ともなる画期的なもの。今回は、学芸員の方やボランティアガイドに話を聞いた。

 野外民族博物館リトルワールドでは、ボランティアガイド制度というものを導入しています。このガイド制度は、来館者に対するサービス向上を図ると同時に、ボランティアガイドの人たちにはリトルワールドの学芸員が研修プログラムを実施し、生涯学習の場ともなっているという画期的なものです。今回はリトルワールドで、学芸員の方、ボランティアガイドとして活躍している方に、その制度について、いろいろとお話をお聞きしました。

Q:ボランティアガイドについておしえてください。

学芸員の亀井さん:

 会場は全体で、7つの地区にわかれています。本館展示室、沖縄・アイヌ・台湾、ペルー〜パリ、ヨーロッパ、アフリカ、インド〜ネパール、そして韓国〜山形の家のエリアです。このエリアごとに解説を行います。リトルワールドは、大変広い範囲に色々な建物があります。地域ごとのエリアにわかれていますが、建物ひとつひとつが、1日中見ていて飽きないものです。1日ですべて見て回るのは無理なので、リトルワールドでは、気軽に楽しめる『ハイキングコース』や、世界各国の神仏をみてまわれる『ご利益コース』なども順路も案内しています。

 ガイド活動時間は10時から15時で、途中休憩時間が入ります。平日の場合は、それぞれのエリアにガイドの人がいるので、ガイドの緑色のジャンパーやベストを着た人に声をかけてもらえば、随時ガイドをうけることができます。土日の場合は、11時と14時から、30分の定期ガイドの時間を設定しています。

Q:ガイドを受けることのできるエリアは、日ごとに違うのでしょうか?

 はい、違います。その日活動予定のボランティアガイドの方の得意なエリアや全体のバランスを考えて決めています。ただし、本館展示室だけは必ず毎日実施しています。たとえば、何日は本館のガイドとペルー、何日は本館のガイドとアフリカ、という具合になります。土日祝は来館者もおおいので、定期ガイドを設定していますが、平日の場合はとくに時間を定めず、適宜ご要望に合わせてガイド活動を行っています。

 本当は、もっとまんべんなく紹介できるとよいのですが、現在の40人ほどのボランティアガイドさんがいるのですが、足りていません。ガイドさんの数は、年に数名増える程度です。年に1回募集をかけていますが、募集は随時受け付けています。

Q:ガイドになるには、どうすればようのでしょうか?

 博物館の事業に理解と積極性のある方で、18才以上の方であればだれでも応募できます。月4回程度のガイド活動をお願いしています。ガイドの方は、リタイヤされた年配の方が多いですが、若い人も、いないわけではありません。活動内容としては、博物館の沿革や趣旨などを話す概要説明、本館展示室と野外展示場の展示解説、あとは、特技のある方の場合は、その披露などもお願いしています。

 現在は、ヨーロッパ地区にある教会にある、パイプオルガンの演奏をしている方などがいます。ボランティアガイド活動に際しては一律1000円をお渡しするとともに、バスご利用の方には犬山駅往復の交通費をリトルワールドが負担しています。

 活動の前に、5日間の研修を実施しています。ボランティアガイド制度についてと本館の研修で1日、野外展示の研修で2日、ガイドの実習を1日、自分自身の学習を深める研修を1日行います。それぞれ興味のある分野、得意分野が違うと思いますが、本館展示、野外のすべてのエリアについて、ひととおり勉強していただきます。また、当館の学芸員や客員研究員らによる学集会(カレッジ)をもうけて、年間を通じて勉強の場を提供しています。

 このリトルワールドカレッジは、一般の方にも有料で解放していますが、ボランティアガイドの方は無料で受講できます。この講座は、本来はボランティアガイドの方のために設定したもので、採算の都合から一般の方にも開放しているものです。研修後は、実際にボランティアガイドの方と1ヶ月、4回程度一緒にガイド活動をしていただき、慣れたところで一人でガイド活動をしていただきます。一人で解説ができるようになるまで、だいたい、研修で1月、見習いで1月くらいかかると思います。

Q:ガイドの方によって、得意分野や専門分野はあるのでしょうか?

 あります。ですが、基本的にどのエリアの解説もできるように研修をしてもらっていますし、得意分野以外のガイドもお願いすることがあります。それぞれの方の得意分野をいかしてもらえるように、ある程度は解説するエリアを選んでいただくこともしています。

Q:ボランティアガイド制度の今後の目標を教えて下さい。

 現在、全体の来館者の8.9%程の人たちが利用してくれています。それほど高い率ではありませんが、この利用率を10%ほどに高めることを目標にしています。年間45万人ほどの来場者が来てくれているので、年間で5万人ほどを目標としています。博物館としては、このボランティアガイド制度は、来館者のみなさまに生涯学習の場を提供することも、大きな目標としていますので、利用率の向上は来館者のみなさまの学習機会が増えることと思っています。

 また、ボランティアガイドさんが活動後に毎回書いてくださる報告を、学芸員やボランティア担当スタッフはまめに目を通すようにしています。報告書を通じて、ガイドさんや来場者のみなさまの声から私どもスタッフも学び、より良い展示にしてゆきたいと思っています。当館は「楽しみながら学べる施設づくり」を大きな目標として、ボランティアガイドによる人同士のコミュニケーションや、五感で体験できる展示やイベントを通して、世界のさまざまな民族・文化を、より身近に感じて頂ける博物館を目指しています。

 ボランティアガイド制度を導入することによって、ガイドさんを通じて、来場者のみなさまと学芸員の関係が大変近いものになりました。これは、テーマパークであるだけでなく、学問の場でもある博物館としてのリトルワールドにとっても、大きな成果だと思っています。


本館展示室で解説をするボランティアガイドの渡辺靖敏さん。
 この後、この日は本館展示のボランティアガイドの担当として活動していた渡辺靖敏さんに、お話を聞きました。

Q:どのようなきっかけでボランティアガイドを始められたのですか?

渡辺:
 私は、もともと小学校の教員でした。現役の教師時代、明治村やリトルワールドのような施設に子供たちを引率してやってきました。そのときに、子供たちに、一番印象に残ったのはなんだったのか、と聞いたところ「迷路」という答えが返ってきたんですね。当時、展示物のほかに迷路が設置してあり、そちらのほうが印象に残って楽しかったと子供たちはいったのです。当時は、なんで迷路なんて設置するんだ、と思ったのですが、よく考えると、子供にとっては見ても面白くないから、そういった感想がかえってくるんですよ。そこで、子供向けのガイド、印象に残るガイドが必要だと思ったのが、はじまりです。

Q:実際にガイドをするにあたり、どのような点に注意していますか?

渡辺:
 大人相手の場合と、子供相手の場合では、違う説明をしています。子供相手の場合は、学校の教育の中身と関連させながら話したり、興味をもちそうな部分を強調して話したりします。難しい話をしても仕方がありません。子供たちの年代にもよりますが、国や民族によって、トイレの形状や仕組みがちがうという話や、料理をするカマドや台所の形が文化や気候によって違う、という話は反応が良いです。また、全く違う国の道具なのに、似たような用途のものは、結果として形が似てくるんだよ、という話も好評です。

 大人相手の場合も、やはり興味のありそうな部分を長く話すことは大切です。人によって興味の分野が違いますし、集まってきたお客さんの顔触れによっても話す内容はかわります。興味のある部分について、いろいろと細かいところまで聞いてくるお客さんもいますし、広く浅く説明をしてほしい人もいるので、そこのところを、どう汲んでゆくかが大切です。ガイドブックのままではない説明をすることが大切です。実際に対面して説明されることで、印象に残るものがあると思うので、自分の言葉で説明することを心がけています。


野外展示物にはアイヌのチセ(家)もある。いくつかのチセが立ち並ぶ中、プ(倉庫)や小さな畑などもあり、さながら小さなコタン(集落)のようになっている。
Q:お客さんには、どのような方が多いですか?

渡辺:
 リトルワールドは野外展示や、各国の料理屋や、衣装の試着が有名ですから、それが目的の方がとても多いです。ですが、リトルワールドはただのテーマパークではなくて、本格的な博物館としての機能ももっています。学芸員もいて、研究もしており、本館の展示室もとても良い展示物があります。ですが、何度も来館されている方でも、本館展示として本格的なものがある、ということを知らない方が多いので、本館の展示物の説明をすると、とても喜んでくれる方が多いです。あと、このリトルワールドの展示物の大きな特徴としては、展示物に触れることです。野外展示の建物はもちろんのこと、館内展示の資料の多くも直接触ることができます。

Q:なんでも直接触ってよいのですか?

渡辺:
 野外展示の建物も、館内展示の資料も、基本的に触って良いです。触ってはいけないものは、そのような表示があるか、触れないように"ついたて"がしてあります。触れる状態にしておくと、資料の保存としては、あまりよくないかもしれません。ですが、やはり触ってみないとわからないことがたくさんあると思うので、博物館の方針としてそうなっています。大変珍しいことだと思います。

Q:ボランティアガイド制度について、どう思われますか?

渡辺:
 最近、なんでもボランティアと言っているのは、やはり少しおかしいな、と思うところはあります。たとえば、ボランティアを使って、本来は社員のやる業務の一部を代行させて安く仕上げよう、という動きもあるようですが、これはボランティアの本来の目的とは違っているのではないかと思います。ボランティアとは、本来は、自ら志願して、お金ではかえられない意味のあることをする、ということだと思います。ボランティアだからといって、あまり構えたり、過度な期待をかけるのはおかしいことですよね。だからといって、いい加減ではいけないので、ある程度はしっかりしていないといけない。

 その点、リトルワールドのボランティアガイドの制度は、しっかりしています。ボランティアガイドを、ただのコスト削減の手段としてではなくて、ガイド自身の生涯学習の場として位置づけて、講習会などを設定してくれています。

Q:講習会の内容はどうのようなもでしょうか?

渡辺:
 リトルワールドカレッジという名前の講習会で、1年に6回開講されています。学芸員の方や大学の先生が、直接講習会をしてくれます。かなり本格的なものです。今年からは上級講座も開設されていて、より詳しい話をきけるようになります。講師の先生も、本格的な人が多くて、たいへんおもしろいです。この講習会もガイドをしていくなかでの大きな楽しみの一つです。

 また、ボランティアガイドをした日に、お客さんの反応や、質問などについて、日報を書くのですが、その日報がとても良いです。学芸員の方がこまめに目を通してくれていて、お客さんからの質問への答えや、感想など、いろいろと書き込みをしてくれています。この日報でのやりとりは、勉強になるし励みになります。この研修制度と日報の充実ぶりは、他の同様の制度を実施している施設にはみられないほどレベルの高いものです。

 正直なところ、リトルワールドでのボランティアガイドは、そんなに出番があるわけではありません。来場者の方の多くは、珍しい建物や料理、衣裳が目当てでやってくる人たちが多く、本館展示があることも知らない人がたくさんいます。同じような制度を導入している明治村は、もっと利用率が高いですし、ガイドの人数もたくさんいます。ですが、出番は少ないかもしれませんが、研修制度の充実ぶりはかなりのものなので、そういう意味では、大変やりがいがあります。


現在の特別展「世界の摩訶不思議な道具展」では、同じ用途なのに全く違う形態のもの、同じ形態なのに全く違う用途のもの、全く違う民族がそっくりなものを作っている例、などがクイズ形式で展示されている。写真の大砲のようなものは、実はタイの太鼓。
 リトルワールドは、愛知県下の学校の遠足先になることがよくある施設だと思います。筆者も子供のころ、同博物館のシンボルマークである「白と赤の半分づつの顔(リトルワールド仮面…実際は韓国のヤンバンのお面)」をCMなどでよく見かけました。その影響で、半分づつに色が分かれているものをみると「リトルワールド状態だ」と呼ぶことが、愛知県下では、けっこう定着していたように思います。この博物館は、愛知県では、それほどまでに親しみのある施設です。

 一時期、閉鎖の噂がありましたが、万博のときにもちなおして、現在にいたっていると思います。たしかに、館内の展示をいろいろと見て回ってみると、建物が老朽化している所もみられますし、本館展示の映像装置なども「調整中」となっているものもいくつかありました。ですが、本物の建物に入れたり、触ったりしてみることのできる施設は、ほかにはないものだと思うので、もっと存続してほしいと思います。

 あらゆる分野で経費削減が進められている最近は、隙あらば、猫も杓子もボランティアで済ませてやれ、という声が聞こえてくる感じがあります。リトルワールドのボランティアの利用の姿勢には、ただのテーマパークとは違うという、博物館としての確かなプライドを、そこで活躍しているガイドの方には、来場者によりよく理解してもらいたい、という熱意を、それぞれ感じました。このようにリトルワールドの例は、ボランティア制度の見事な活用の事例だといえるでしょう。

 リトルワールドに行った時には、緑のジャンパーの人に声をかけてみると、みなさん、それぞれ、なんらかの「こだわり」をもった人たちだと思うので、面白い話がきけるのではないか、と思います。
小学生達に解説をする渡辺さん。小中学生たちは、遠足などでよく来場するとのこと。 館内展示には、アイヌ民族の展示物もある。写真はイヨマンテ(熊送り)のヌサ(祭壇)。 ペルーの領主の屋敷を解説するボランティアガイドさん。渡邉さんのほかにも、たくさんのガイドの方が活躍している。