【G8洞爺湖サミット オルタナティブ】アイヌのたどった「強制移住」ルートを歩く(JANJAN記事)

Ainu_puyarA2008-06-24


Esaman2008/06/24
 私のアイヌとしての恩師にあたるフチのお孫さんが、現在、北海道「PIRKA KEWTUM APKASというロングウォークを実施しています。かつて、樺太アイヌ達が、強制移住ルートとしてたどった道を、自分の足で歩いて、平和や環境、多民族共生のメッセージを訴えよう、というものです。

http://www.news.janjan.jp/special/0806/0806210176/1.php

6月12日 参加者5名。小平周辺での様子。 私のアイヌとしての恩師にあたるフチ(注1)のお孫さんが、現在、北海道「PIRKA KEWTUM APKAS」というロングウォークを実施しています。

 このウォークは、かつて、近代国家間の都合に翻弄された樺太アイヌ達が、強制移住ルートとしてたどった道を、自分の足で歩いて、平和や環境、多民族共生のメッセージを訴えよう、というものです。強制移住させられたアイヌたちの行き着いた場所、札幌郊外の対岸がゴール地点になっています。(この場所は、そのアイヌたちの多くが眠る場所でもあります)、その後、APKAS KARIP祭というお祭りを、当別の旧中小屋中学で開催して終了する予定です。

 樺太アイヌたちのたどったルートは、実際には、船旅だったのですが、そのルートを自分の足で歩いて考える、というのは、いろいろな意味で深いものがあると思います。今回は、すでに北海道を歩いている彼女に電話で取材をして、実際にその足で分かったことや、ウォークへの想いなどをお聞きしました。(6月15日の取材。写真提供は堀多栄子さん)


6月18日 参加者12名。留萌周辺の様子。Q:現在の位置は?
 堀多栄子さん: 苫前(とままえ)です。

Q:今回のウォークで、このルートを歩くことにした理由を教えて下さい。
A:このルートになったのは、仲間のみんなと話をしていて決まったものです。樺太アイヌ強制移住のルートに沿って歩いていますが、Esamanさんならご存知だと思いますが、これは実際の強制移住のルートとは違います。本当のルートは船での移動でした。

 実際に歩きはじめてわかったことですが、このルートは、昔のアイヌ達が強制労働のために連れていかれるときに歩いた道筋でもあるようです。最初の3日間に花崎皋平さんが参加してくださって、そのようなお話を聞きました。

 自分としては、アイヌとかは別に関係なく、ただ歩きたかった。巡礼がしたかったのですが、どうせ歩くなら北海道を歩きたかった。自分の足で、大地を踏みしめて歩いて、自分の存在がわかる感じがします。祈りながら歩いている感じがします。今日で11日目なのですが、毎日が想像以上に楽しいです。楽しいし、幸せです。地球に存在する、小さな人間として、今できることをしている。アイヌだから、ということではなくて、人間としてできることをしているという気がしています。

Q:最初から楽しかったですか? 辛いときはなかったですか?
A:楽しかったです。もちろん団体生活だからいろいろ問題もありますし、オーガナイズしながらのウォークなので集中出来ないことも多々あります。はじめの3日間は大変でした。とにかく足が痛い。水ぶくれができる。本当に痛い。痛いけど、心が楽しくてハッピー。こんな感情になったのは初めて。足はとてつもなく痛いけど、心はハッピー。どういうこと?という感じでした。4日目に、天候がよくなかったこともあって、1日半ほど休みをとりました。それ以降は、足もそれほど痛くもなく、ただひたすらに楽しいです。いまは1日15Kmくらいは楽に歩けます。

Q:実際に歩いてみて、わかったことはありますか?
A:いままで車で通っていた道を、歩いてみると、いろいろなことが見えてきます。稚内は、ワッカサクナイというのがアイヌ語の地名で、飲み水のないところという意味ですが、ほんとうにそうなんだな、というのがわかりました。砂浜を歩いていると、山のほうから川が流れて込んでいるのですが、その水が真っ赤なんです。鉄分があるんでしょうか?とてもの飲めそうではないです。民家も田んぼもない。人もまったく通り過ぎません。昔、アイヌが水のない土地と名づけて、住んでいなかったように、ここでの暮らしはは大変だったろうな…、ということが容易に想像出来ました。

 人がすまない理由も、地名の意味も、一歩、一歩、歩くことによって、よくわかりました。こんな土地に、昔のアイヌ達は強制移住させられたんだと思うと、苦労が大変しのばれます。

 原野には、本当に1人も人がいません。そんななか、ものすごい向かい風の中を、斜めになりながら歩きました。人は1人もいないのに、ゴミだけはたくさん転がっています。道路も車が通り過ぎるだけで、人影はないのにゴミは散乱している。海岸線も、車の窓から捨てたであろうゴミが散乱していました。海岸も、足を下ろしたくなくなるほどゴミが散らかっていました。

 稚内を抜けて、羽幌の方にやってくると、ビーチになっていて人もやってくるので、かなりゴミがなくなっています。そんな、人と自然の本当の姿も、実際に歩くことによってわかりました。

Q:道中はどんな感じでしょうか?
A:出発のころは、7人ほどのメンバーがいました。いろいろと都合があるので、そのメンバーも1人2人帰ってしまって、通しで歩くコアメンバー3人ほどで2日歩きました。昨日あたりから、また新しい人の参加があるので、新しいアプカシが始まったという感じで新鮮です。距離としては、やっとで折り返し地点にやってきた感じです。後半に厳しい道がいくつかあるので、いまから少し距離を稼ぐつもりでペースをあげています。参加者は、道内からは、札幌、紋別当別、小樽など、道外からは、岩手、東京、名古屋や神戸からの参加者もあってにぎやかです。

Q:みなさんへのメッセージをお願いします。
A:実際に歩き回って見ていると地図の上だけでは見過ごしてしまうようなものがたくさん目に入ります。地名の「飲み水がない」の意味がわかったり、人がこない原野がゴミだらけなのがわかったり、道端にきれいな花が咲いているのがわかったりするのも大きいのですが、地名に「豊」とか「明」という漢字をつけたところが多いのに気がついた。江戸時代には、暗黒の地のように思われていた北海道に開拓でやってきて開拓団が、願いを込めて、アイヌ語の地名に当て字として明るい意味の漢字をつけたのかな、と想像しています。実際には、厳しい土地で豊かでも明るいと言うイメージを押し付けるように……歩いていると、こんなことを、いろいろと考えることができます。

 私は長い間、ロングウォークや、熊野や四国などの巡礼で歩くことに憧れていましたが、実際に歩いたことはまったくなかったので、最初は、歩けないと思っていました。歩けるわけがないと思っていました。一人じゃできなかったことです。仲間がいたからできました。これからも仲間と一緒に歩きます。今度の土日はイベントがあります。途中からの参加も歓迎ですから、可能な方は、是非参加してください。

E:また何日かしてら電話します。いまやっとで折り返しになったところです。がんばってください。

注1フチ…アイヌ語で「おばあさん」の意味。尊敬の意味を込めて呼ぶときに使う。



6月18日午前 留萌周辺での、名前も知らない川。
 国連での権利宣言の採択、日本政府による先住民族認知、北海道でのG8開催などで、私達アイヌの動きも、いろいろと活発になっています。しかし、彼女達のように『先祖の行ったこと、たどった道を、実際に自分の体で体験しなおす』という身体性をもった行為は、実は、かなりおろそかになっているのではないか、と思います。とくに、G8のような大きな『騒動』が発生しているときには、なにやら、上から世界を掌握しようとするかのような『G8の視点』に、別にG8の関係者でもない私達も、つい立ってしまいがちです。

 『アイヌとは、どういうことなのか?』とは、いまを生きるアイヌには常について回る疑問であり、また他者からされる質問だと思います。これには、差別がある、ということではない部分の、もっと深刻な問題が多数含まれています。この部分について、真剣に悩んだことのない人は、中身のない人になってしまうでしょう。

 自分としては『アイヌとはなにか』とは、人に、あるいは自分に、どう説明をするか、ということではないか、と思っているのですが、そのような事を人に伝えるにあたり、昔の人も行っていた、身体性のあるもの、具体性のあるものを、古臭いものを、面倒で不効率でも、実際に、昔ながらの方法で体験しなおしてみる、という行為は、とても大切なものだと思っています。

 かつて、先祖のたどった道を、自らの足で歩く、という、かなり『効率の悪いこと』を、仲間とともに実践している彼女達は、きっと、文化教室のような形で学ぶものとは違うもの、『市民による提言活動』とも『反対・粉砕・対抗アクション』などとも、全く違うなにかを、つかめるものと思います。

 このような取り組みが『アイヌ』を課題にしたものだけでなく、もっと増えるとよいなと思いました。

関連記事:
日本:衆参両院がアイヌ決議を可決
【G8洞爺湖サミット オルタナティブ】アイヌなど先住民族が差別体験訴え 東京でイベント
ようやく認められたアイヌ「列島の先住民族」決議
市民が歌う飯田線の歴史
【G8洞爺湖サミット オルタナティブ】上村英明教授にアイヌ問題を聞く〜国や市民社会に求められる今後の課題とは
【G8洞爺湖サミット オルタナティブ】先住民族サミット アイヌモシリ2008 酒井美直さんに聞く
【G8洞爺湖サミット オルタナティブ】知恵を集め、先住民族サミットで政策提言
「コモンズ」とは−アイヌ民族と対等になるために
東京の街に響くアイヌの歌声〜フィールドワーク「アイヌと歩む……東京アイヌ史」に参加して
アイヌ民族の今と未来 「文化振興法制定」10年 ]