【G8洞爺湖サミット オルタナティブ】アイヌの「強制移住」ルートをあるく(2)(JANJAN記事)

Ainu_puyarA2008-06-25

Esaman2008/06/25
いろいろなことについて、みんな『知っている』とはいいますが、実際にやったことのある人って少ないですよね?今回のウォークでも、それを痛感しました。知識として知ることと、実際に歩くことは、まったく違うものです。

http://www.news.janjan.jp/special/0806/0806240504/1.php

 【G8洞爺湖サミット オルタナティブ】アイヌのたどった「強制移住」ルートを歩くの続きになります(写真はアプカシのホームページより)。

Q: ウォークの様子はどうですか?
A:今日(21日)は、対雁(ついしかり*1)でイチャルパ(*2)を行います。ウォークの参加者は、2人増えて、1人減って、現在13名です。

 歩く行程は最後の部分に入っていて、すでに市街地に入っています。強制移住の道にそって、川沿いを歩くことになります。市街地で交通量も多いので、車に気をつけながら歩くのが大変です。今まで歩いてきたところは、山や川がほとんどでした。それはそれで大変な道のりでしたが、市街地に入ってくると、違う大変さがでてきます。今日、明日とイベントの日で、23日からは、最初のほうで一緒に歩いてくれた花崎さんをはじめ、このウォークを応援してくれている、色々な人たちが駆けつけてくれる予定です。

Q:大変なことはないですか?
A:とにかく車が怖いです。いままで歩いていた場所も、人はいないのに車だけは通っていて大変でした。歩いている人は、まず居ないようなところですから、その車もとてもスピードが出ています。次に市街地に入ったら、今度は車の量が多くて大変でした。本当に車社会なんだなと思います。あとは、歩きながら最終日のお祭りのオーガナイズもしているので、その調整で大変です。出演者やマスコミなどから、どんどん電話がかかってきます。参加者は多いですが、コアスタッフも少ないので、一人の仕事量がとても多くなってしまいます。歩くことに専念できないのが一番辛いです。最近は、歩いている間は携帯に出なかったりします(笑)

Q:これから参加したい場合はどうすればよいでしょうか?
A:現在のウォークは市街地なので、交通量の多い道を大勢で歩くのは危険もありますし、街中を歩いても、あまり楽しくないかもしれませんね。最終日に予定しているお祭に参加するのがよいかもしれません。

Q:それはどんな祭りなのでしょうか?
A:廃校になった小学校を借りて開催します。色々な人たちがやってきてくれます。とにかく楽しいと思います。でも、企画している自分自身も『架空のイベント』を準備しているような感じがしていて、どういうものになるのかは、やってみないとわからない部分があるので、うまく説明できませんが、とにかく今までにない、楽しいものになると思います。最終日には、おばあちゃんも駆けつけてくれる予定です。

Q:ウォークを通して再発見したことはなんですか?
A:いろいろなことについて、みんな『知っている』とはいいますが、実際にやったことのある人って少ないですよね?今回のウォークでも、それを痛感しました。知識として知ることと、実際に歩くことは、まったく違うものです。380kmを全部歩くことによって、見えてくるものがあります。世の中には、理屈ではわからないものがあります。机の上だけでは決して理解できないものがあります。強制移住の道のりを、実際に歩いてわかることがたくさんあります。いまも歩いている最中なので、言葉で説明するのは無理ですが、とにかく、体で覚えることはとても大切です。いくら知識があっても、実際にやったことがあるとないとでは、説得力に違いがあります。多栄子さんも、お祭りの打ち合わせをしつつ歩く、という、なんだか大変なことになってきているようなので、当初の予定のようにマメに電話で取材、というわけにはいかなくなってしまいましたが、ウォークは順調なようでよかったです。

 お話でも出てきていましたが『実際に経験することの大切さ』ということでいえば、自分自身にも当てはまることがいくつかあります。アイヌの歴史や言葉、いろいろと『勉強』をしているわけですが、やはり勉強しているだけでは、なにも身につかない、と思うときがあります。いろいろな事実を知ることは大切なのですが、それはあくまで、整理のために必要なことであって、大切なのはどう実践するか、どのように『説得力』をもつか、ということなのではないか、と思います。

 今回のウォークについて、本日(21日)、対雁でイチャルパを一緒に行い、26日には、カラフトアイヌたちの墓地のフィールドワークを行う予定の、小川隆エカシ(*3)にも、お話を伺いました。隆吉さんは、アイヌ民族共有財産裁判の原告団長の方で、樺太アイヌの強制連行についてのフィールドワークなどを長年行ってきた人です。エカシの人柄が出ていると思うので、やり取りをできるだけ残して掲載します。

Q:今回、過去にアイヌ達が強制移住されたルートを歩こう、という企画について、どう思われますか?
隆吉さん:今回のランナー(実際にはウォークです:Esaman注)は、画期的なことだよ。行動方針、行動内容、企画内容、すべていい。隆吉は、賛成だよ。

Q:隆吉さんも、フィールドワークを行っていますね。やはり実際歩くことは大切でしょうか?
A:そのとおり。歩くことは大切だ。勉強だけじゃね、わからないことがたくさんあるからね。僕もね、フィールドワークで人をたくさん連れて、何度もやったよ。何度も何度も。北大のね、人骨倉庫とね、昔、人骨が放置されていた建物の前にね、人を連れて行くんだ。あとね、対雁。墓地のあるね、昔のアイヌたちが先祖たちがね、死んで埋められた場所にね、いま発電所が立っているんだよ。そこにね、人を連れていくとね、わかるんだ。大きな立派な墓石がね、たくさんたっている。でも立派な墓石は、アイヌのじゃないんだ。歩かないとね、行かないとね、わからないんだよ。

Q:隆吉さんのご記憶では、このように強制移住ルートを実際に歩こう、という人は、いましたか?
A:……ノー。ノー。ノーだよ。そんな人は、いなかったな。自動車でいったり、自転車で行ったりした人はいたな。地名の調査をしたり、先祖の歩いた場所を確かめようとかね。昔のアイヌたちがつけた地名はね、すべて、その土地のことを表しているからね、それを実際に見に行くことは、大切だからね。でもね、昔の強制連行の道っつったら、道なんか、ないんだよね。すべて原野と川。川沿いに歩くしかなかったの。大変だったの。今は道路があるけど、それでも歩くのは大変だよね。初めてのことだと思うよ。立派なことだ。隆吉はね、歩こうと言い出した人にはね、感謝するよ。本当に、全部歩くなんて、考えもしなかったな!!

Q:現在G8が北海道にやってきていますが、どう思われますか? 参加される予定はありますか?
A:賛成とか反対とか、言ったって、止まるものでもないよね。でもね、アピールすることはね、いいことだよね。参加はね、あんまりしないよ。なにかに参加するとね、隆吉は、大声で質問するからね、みんな降参なんだよ。札幌もね、いろいろなところで警戒が厳しくてね、あまり出歩くとね、逮捕されちゃうからね(笑)。エカシは冗談交じりに「逮捕されちゃう」と言っていますが、これは、実は少し深刻な問題で、外国人のような雰囲気がある、というだけで職質を受けたり、身分証明書の掲示を求められる、ということが、空港や大きな駅などでは、最近、特に北海道では、増えている模様です。

 実際、アイヌには日本人と違った雰囲気をもつ人も、それなりにいるので(まったく変わらない人も、たくさんいます)このようなご時世では、いろいろと面倒な目に会うこともあるようです。かつて、日本人の過激派が、北海道で、アイヌへの侵略を問題化していろいろと騒動を起こした時に、まったく関係もない人が、職質を受けたりした、という問題と、似ている気もします。

 今回のG8の現場となっている植民地北海道で、かつて、樺太アイヌ強制移住があり、かなりの数の人たちが死んだ、ということを、現在、G8関連で提言や反対をしている人たちの、果たして何人が『知って』いるかというと、あまり知られていないのではないか、と思います。一方で、このような事実は、少しアイヌの事を調べた人なら『知って』いると思います。このような事実を『知って』いる人たちを増やすことは、とても大切だと思います。でも一方では『知る』事だけでは、イマイチ効果がないのではないか、と思う時もあります。

 たとえば、アイヌ先住民族である、ということは、国会で決議がされる前から、かなり広範囲の人たちが『知って』いたと思います。ですが、今回の国会決議に、それがどう結びついていたのかといえば、どうでしょうか?実は外圧によっての変化であり、国内的な議論が行われていたのかといえば、皆無に近かったのではないか、と思います。また今後、あの決議が、アイヌのおかれている現状の改善に、どう結びつくのかには、大きな疑問が残ります。

 10年前の文化振興法制定のときに『ここがスタート』と、アイヌ当事者も含む、多くの人が発言しつつも、実態としては、それ以上の進展があまりなかった、という経験を、忘れずに踏まえるならば、安易に『これをスタートにして…』といっては、いけない気がします。ではどうすればよいのか?正直なところ、よくわかりませんが、たとえば、今回のウォークや、隆吉さんが長年続けれこられたフィールドワークのように、まず足元の出来事について、具体的に、一緒に歩いたりすることが、大切なのではないか、と思いました。

注1対雁(ツイシカリ)…札幌郊外の、樺太から強制移住されたアイヌたちが住むことになった場所。この場所一帯に住み、漁業などを行っていたが、疫病により大勢亡くなり、多くの人が埋葬された。現在は市営墓地がある。
注2エカシアイヌ語で「おじいさん」の意味。尊敬の意味を込めて呼ぶときに使う。
注3イチャルパ…アイヌ式の先祖供養。先祖に供物を届けるために、野外で行う。
注4イナウ…生木を削って作った御幣。神や先祖をを祭る時に使う。木を削り、リボン状のものをたくさんつくって房状にする。さまざまな形がある。あちらの世界に届くと宝物になるらしい。

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PIRKA KEWTUM APKAS樺太アイヌの強制移住(アイヌ民族情報センター活動誌)
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